歌へのリンクは文中にあります 2013年早春、ボーカロイド歌声ライブラリ『KAITOV3』が発売され、 サイト管理人は思い立ってボーカロイドＶ３エンジンを初めて使ってみました。 何を歌って貰おうか……と考えた末に選んだのがこの曲、「カルメン」からの二重唱「母の便りは」でした。 いや、オーケストラ伴奏自体は2008年に作り始めていたのですが、 それはフルスコアを見たのではなく、 ボーカルスコアから起こした「なんちゃってオケ伴」でして、 どこをどういじっても「コレジャナイ感」満載で撃沈…… しっかりとしたフルスコア楽譜を手にしてやりなおしたのが2013年に入ってからでした…… さて、「カルメン」は以前から何曲かをアップしております 第一組曲より３曲(序曲、アラゴネーゼ、闘牛士) 第二組曲より「ハバネラ」 第１幕10番 カルメンの独唱「セギディリャ」 第2幕14番 エスカミーリの独唱「闘牛士の歌」 ： ： どれを取っても有名なもの(「セギディリャ」は知らない方がいらっしゃるかもしれませんが)ですね。 カルメンには他にもホセの「花の歌」など有名な歌があります。 そんな中、今回のこの二重唱はマイナーかもしれません。 私も、カルメンの全曲を観るまでは、この曲を知りませんでした。 しかし、一度聞いてからは、この美しいメロディーが ミカエラの可愛らしく可憐な姿と共に 頭からずっと離れないで今日まで到っています。 以前にもカルメンを取り上げた際に簡単なあらすじを載せましたが、 この曲に関係した部分を書いておきます。 煙草工場の女工、カルメンは、崇拝者にいつも囲まれている妖艶な美女。 しかし、カルメンが狙いをつけたのは、彼女に見向きもしない、しがない伍長のホセ。 彼女は「ハバネラ」を艶やかに歌い終わると、カシア(キンゴウカン)の花を彼に投げる。 その花を広い、心が揺れるホセ。 ……この花によって、彼の心は魔法のようにカルメンに惹きつけられてしまったのだ。 そこに、純朴な17歳の娘、ミカエラがホセの故郷の村からやってくる。 彼女は孤児で、ホセの母に養われ、ホセとは兄妹のように育った間柄。 ホセは暴力沙汰を起こして村を飛び出し、兵士となり、ずっと街暮らし。 そのホセにミカエラは 「私はお前の帰って来るのを村でずっと待っていますよ」 という言葉と、母からの接吻を伝え…… それがこの歌です。 以下、詞は管理人です。音楽之友社から出版(世界歌劇全集15)された堀内敬三さんの訳と、 「オペラ対訳プロジェクト」様がサイトに掲載なさっている訳を参考にさせていただきました…。 といいつつ、どうしても意訳にすらならず作詞してしまい、或いは、部分的に堀内さんの訳と合致してしまい… いろいろ難点はありますが、素人の道楽ということでお許し下さい(下をクリック)。  二重唱「母の便りは」(ＭＰ３です)＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ (青字：ホセ 赤字：ミカエラ 紫：二人) 母さんからの ことづけだって？ ええ、このおたよりを預かって来たのよ 手紙？ (財布を取り出して)それとこれは、ちょっとお小遣いですって。 それから それから？ それから、ああ、言えるかしら…… もう一つ託されたものはホセには、お金などより嬉しいおことづけよ それはまた何かな？教えて？ わかりました、お渡ししましょう、預かり物を。 教会の礼拝のあとで、かあさまがおっしゃったの。 行ってきておくれセビリャの町へ。道はそんなには遠くないから 町についたらどうか息子の居場所を捜しホセに会って 母は昼も夜もお前の身を案じ、愛し子の帰りを待ちびているのだと 母の想いをよくホセに告げておくれ、そうして私のキスを伝えておくれと 母さんのキス！ 愛を籠めた 母さんのキス！ 息子へのキス。ホセ 確かにお伝えします。 (ミカエラはホセにそっとキスする) 母の便りに思い出辿れば、懐かしふるさと瞼に浮かぶ 母の便りに思い出辿れば、懐かしふるさと浮かびましょう 懐かしふるさと瞼に浮かぶ ふるさと 胸にあふれる 心熱く胸は満たされる 想いがほら満ちてくるよ(わ) 大切な場所 悪魔が罠をかけて来たが、故郷の母が送ってくれたことづけのお陰で あのキスが僕を災いから遠ざけた。 悪魔？災い？わからないわ……何のことなの？ いいや、別に。 ところで伝令さん、すぐ村に帰るの？ ええ、すぐに発って、明日には村に着くわ。 そうなの、では伝えて。 昔の過ちを僕は悔いていると、正しく生きることを約束しますと！ 僕の想いをよく母に伝えてくれ そうして僕のキスを伝えておくれよ (ホセはミカエラにキスをする) 約束します 伝えましょう ホセあなたの想いを確かに 母の便りに思い出辿れば 懐かしふるさと瞼に浮かぶ 母の便りに思い出辿れば 懐かしふるさと浮かびましょう 懐かしふるさと瞼に浮かぶ ふるさと 胸にあふれる 心熱く胸は満たされて 想いがほら満ちてくるね(わ) 大切な場所 大切な我が故郷 大切な村ふるさと ふるさとよ 胸あふれ 想いが満ちてくるよ(わ) 大切な場所 私たちの 想いがほら 満ちてくるね 懐かしふるさと瞼に浮かぶ ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 以下、「オペラ対訳プロジェクト」様よりこの歌の原文と訳を転載させていただきました。 (ほんとうにお世話になっております！素敵なプロジェクトに大感謝。)
ミカエラに渡された手紙を読むと、そこには、 「村に戻ったらミカエラと所帯を持って落ち着いて欲しい」 との母の言葉が書かれており、ホセも心の中で同意しますが、 結局はこの後起こった一連の騒ぎの中でのカルメンとのやり取りの中、 情熱的で妖しいロマ(ジプシー)女の魅力に捕らわれてしまうのです…… この二重唱のメロディーは、それからしばらくして、 密輸人一味となってしまったホセに会うため たった一人で険しい道をやってきたミカエラが ホセに対して村に帰るように切々と訴えるときにも現れる旋律です。 もうこの時に既にホセから心が離れているカルメンはホセを厄介払いしようとしますが、 ホセは聞き入れず、母が危篤だとミカエラに聞いて初めて正気に戻り 「一度帰るが俺は必ずお前のもとに戻って来るぞ！」 と宣言してミカエラと共に行き……母を看取った後、村を(今度は本当に)捨て、 悲劇的な結末へとなだれ込むのです…… 演出によって、ミカエラの立ち位置はかなり変わりますが、 歌詞を作るにあたっては、「純真無垢な少女」だとして考えました。 カルメン姐さんにもいろいろと事情はありますが、 猥雑な世界(カルメン・町・悪・地上)⇔清らかな世界(母・村・善・神) なる図式で物語を構成するのが一番単純で判り易いと思います。 そうすると、ミカエラは神様からのメッセンジャー、天使だということになる…のかもしれません。 ボーカロイドについて少し述べると、 Ｖ３エンジンはそれまでのものよりもずっと使用し易いもので快適でした。 ホセはKAITOV3のジェンダーファクターを上げ、ミカエラは下げて使用。 ミカエラについては他のパラメーターもかなり動かしています。 しかし、エンジンが変わったからと言って、作り手が変わったわけではなく 何かおかしいなと思う→自分で歌ってみる→直す→まだおかしい→また歌う→直す→おかしい… の繰り返しで……それでもまだおかしい……(ダメダメです) 私は実力不足ですのでどうしようもありませんが、 ボーカロイドの達人の方々でも合成音声が人の声に太刀打できるわけはありません。 本来、ボーカロイドの存在意義は、オリジナルの楽曲製作にあるのだと思います。 が、 「ああ、こんな二重唱もクラシックにはあるんだ」 と、 歌劇世界への入り口をくぐっていただけるきっかけとなれば幸いです…… |